基本方針の前口上ばかりじゃ退屈ですよね。具体的な解釈を配列順にしていきましょう。まだ説明していない方針については、そのなかで随時説明していきます。 今回とりあげるのは、1段。 冒頭ですから、もちろんメジャー章段で す。研究論文も多いです。でも、もうすることがなくなったわけではなく、遊べる余地は残ってました。 以下、概要をごく簡単に述べて、ぼくのワザを披露しましょう。みなさんの前頭葉をビリビリ刺激できればいいんですけど。 とりあえず、概要。 伊勢物語の原文・訳は、どこかで見つけてきてください。 初冠の段として有名ですよね。 元服したての主人公(以後昔男と呼ぶ)が、旧都となった平城京で「いとなまめいたる女はらから(姉妹)」を見つけ、とっさに気の利いた歌を贈る。 どんな姉妹だったんでしょうか。旧都だけに、キュート。失礼しました。冗談です。「いとなまめいたる」ですね。この言葉で遊んでみましょう。 この箇所、みなさんの手元の注釈書ではどんなふうに訳してありますか。 「なまめいたる」を「若々しい」というような意味で訳したものもあるんじゃないでしょうか。 確かに、そのような意味はあります。 でも、だからと言って、縛られることはありません。辞書に載ってる意味で、当時使われていた意味であること。 文脈的に齟齬をきたさない意味であること。 この条件を満たしてさえいれば、答は一つと限りません。注釈する人は一つに絞らなければならないんでいろんなこと言ってますが、 言葉の意味には幅があって、一つに絞るのが難しい場合は出てきます。そんな時は、自由に意味を選んでみましょう。 ぼくは、「なまめいたる」を「上品な」と訳して遊んでみました。内面からにじみ出てくる上品さの説明、ととったのです。 内面のよさに結びつけたのがミソです。 そうすると、2段や3〜6段との関係が面白くなるんですよ。 言い換えれば、面白くするために、この訳にしたんです。 2段の舞台は、平安京のなかでもさびれている「西の京」。さびれている点は、1段の平城京と同じですね。 そして、そこに住む女は、「かたちよりは心なむまさりたりける」と説明されます。外面より内面がすぐれている。つまり、この2段とさっきの1段の相似を読むには、1段の「なまめいたる」も、内面のよさについての説明でなければならなかったわけです。 対照的に、3〜6段の舞台は、平安京のなかでも栄えている「東の五条」。相手の女は、皇太后邸という中心の地に住む、お姫様=藤原高子(後の二条后)です。1〜2段の女たちとは好対照で、陰/陽と言えます。加えて、驚くべきことに、このお姫様には、内面にかかわる説明が全くなく、芥川の段として有名な6段に 「かたちのいとめでたくおはしければ」という外面のよさについての説明があるんです。ビックリでしょ。その意味でも、1段の「なまめいたる」は、 内面についての説明であってほしい。 1〜2段の内面/3〜6段の外面、といったせっかくの好対照を活かして読みたいですからね。 さらに言えば、お姫様は後に清和天皇の后となりますが、その天皇は、「伊勢物語で遊ぼう」では守備範囲外となる65段において、「顔かたちよくおはしまして」と説明されます。つまり、天皇と后が美男美女のカップルとなって、陽の人物について外面のよさを言う点が明確になるんですよ。もちろん、となれば、陰の人物について内面のよさを言う点がより対照的に際立つことにもなります。 陰/陽論に、内面/外面論。面白いもんでしょ。 ★ダイジェスト版はこちら。 ★伊勢の全原文は、「日本語テキストイニシアチブ」でご覧になれます(こちら)。 ★記事の無断転用は禁じます。 |
目次 | |||
はじめに | |||
第1回 | 第2回 | 第3回 | 第4回 |
第5回 | 第6回 | 第7回 | 第8回 |
第9回 | 第10回 | 第11回 | 第12回 |
第13回 | 第14回 | 第15回 | 最終回 |
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