伊勢物語で遊ぼう第15回

マイナー章段一気読み


第11回以降、23段や24段で足踏みしすぎましたねぇ。 今回は、25〜37段を一気に読みます。大まかな流れを把握できるようにするためにも、一気にやっちゃいます。マイナー章段が多いんで、うまいこと構成を考え、面白くしましょう。第11回で述べたとおり、少なくとも伊勢物語においては、構成は、アルものじゃなく、ツクルもの。前頭葉をフル稼働して、うまい構成を創出したいところです。

では、いきましょう。25〜37段では、恋にてこずる25〜27・28〜30段/どん底まで堕ちる31〜34段/強さをとり戻す35〜37段、 と三段階に分けて昔男の成長過程を読めます。ままならない現実に直面し、ストレートな力強さも奥ゆかしいミヤビも忘れた昔男が、 その弱々しい状態から一転して凛々しい昔男へと回帰する、って構成をツクルんですよ。

まずは、恋にてこずる25〜27・28〜30段から。ここは、25〜27段/28〜30段が繰り返し、かつ、二階建てのように積み重なります。要するに、第11回で見た、21段/22段の上に23段第一・二部/第三部・24段がチャート式で積み重なる構造と同じですよ。積層構造と言っていいでしょう。

25〜27段は、次のような話。25段では、昔男が「色好みなる女」に軽くあしらわれる。26段では、二条后とおぼしき女に他の男が言い寄っているのを知って、嘆く(二条后が何者かは、第4回参照)。27段では、訪れてやらなくなった女が嘆いているのを聞いて、同情する。これが、ベースの一階に相当します。

二階に相当する28〜30段も、一階の25〜27段と同じ順序で繰り返します。28段では、固く誓い合った「色好みなりける女」に出て行かれ、嘆く。29段では、厳然たる身分差が生じた二条后らしき女とのままならぬ逢瀬を、恨む。30段では、少しだけ関係のあった女に、恨み言を言う。30段は、27段とはちょっとズレますが、関係が途絶えている相手との話という点で積み重ねちゃいましょう。

注目すべきは、一階の25〜27段より二階の28〜30段の方が、昔男がより厳しい状況に追い込まれてる、という点。28段では、出て行かれる。29段では、手が出せないのに加え、厳然たる身分差が生じる。昔男にとっては、よりつらいはずです。また、相手が嘆いていた 27段に対し、30段では自分が嘆いているから、やはり、昔男にとって、よりつらくなってる。とまぁ、こんな感じで進んでいきます。

次は、どん底まで堕ちる34段に至る、31〜34段の過程。31段では、言い掛かり的な恨み言を言われますが、事態を収拾するどころか、さらにまた別の女の恨みまで買ってしまいます。 32段では、かつて関係のあった女とヨリを戻そうと未練がましい歌を詠み贈るものの、結果は無反応だったと読めます。 33段では、昔男が田舎女に一本とられ、ミヤビ男の面目丸つぶれ。34段では、「つれなかりける人」に全面降伏し、歌で憐れみを請います。注目すべきは、歌の後の最後の語り手のコメント。「おもなくて言へるなるべし」、すなわち、面目もなく詠んだのでしょう、ってこのコメント、後で重要になってくるんで、おぼえておきましょう。とにかく、31〜34段は、失態・醜態と読めるわけなんですよ。

しかし、昔男は、35〜37段で強さをとり戻し、復活・成長します。ならば、さっきの34段最後のコメント「おもなくて言へるなるべし」は、昔男を一喝し、と同時に、自覚・反省する昔男像までも想像させる一文、と読めます。それでシャキッとする、堕ちきったがゆえに復活・成長への足掛かりをつかむ、ってこと。35段における昔男は、不本意ながら関係の絶えた女に、一旦絶えてもまた逢おう、と歌を詠み贈ります。 結末は知らされませんが、結末なんてこの際どうでもいいんですよ。この歌が内蔵する力強さを読みとれれば、もう十分。36段では、「忘れぬるなめり」と問い掛けてきた女に対し、力強く愛の永続を誓っています。37段には、「色好みなりける女」が再々度登場。25・28段でしてやられてる昔男は、ここでリベンジ。37段では、オレだけ見てればいいんだ、といった感じで強気に押します。すると、女も、従順になびいてしまうのでした。

以上のような構成を考えてみましたが、いかがでしたか。25〜37段は、「色好み」な女にはじまり、「色好み」な女で終わる。で、その間、昔男は、堕ちていってから復活・成長する。マイナー章段だって、つないで読もうとすれば、こんなに面白い構成をツクルことができるんです。 ちなみに、巨視的な見方をすれば、まだまだ面白くなりますよ。 第11回の積層構造は、21段の弱さ/22段の強さの上にまた別種の23段第一・二部の弱さ/第三部・24段の強さが積み重なりましたが、25〜37段は、25〜34段/35〜37段で昔男の弱さ/強さを示していると読めますから、弱さ/強さあるいは強さ/弱さの積層構造がつづいてることになります。また、これ以外の構成をツクルことも可能です。たとえば、35〜37段でも堕ちたまんま、なんて具合に。伊勢をつなぎ読むって、楽しいもんでしょ。

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目次
はじめに
第1回 第2回 第3回 第4回
第5回 第6回 第7回 第8回
第9回 第10回 第11回 第12回
第13回 第14回 第15回 最終回
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